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コロセアムの上と下(人非人より3)

背筋を伸ばして大声を出し、拳を振り上げる人はコロセアムの上に立つ。
少しかがんで槍を持つ人は下にいる。
下にいる人には彼我の距離はとてつもなく遠く感じ、上にいる人には間近に思える。

人非人よりを書くことは正直億劫である。私とて24時間人非人ではない。
にこにこ顔で日常診療を行いながら、その一環として病気に対する冷徹な眼と腕を持つ。
医学用語で云う”鬼手仏心”の鬼の部分をかなり誇張して書いている。

例えば、安楽死の是非について一般人が論じる場合に、受ける人のことを論じても、する側の苦痛について誰も論じようとしない。
脳死判定も倫理だとか臓器移植の必要だとかは云われても、人工呼吸器や留置針を取り去り、そのままその場に立ち続けて自分が処置した人の瞳孔の散大や脳波・心臓の停止を確認する人間の心理は問題にしない。
手順を一歩間違えば裁判所、牢獄である。成功しても100万円もらえるわけじゃない。
誰かに感謝されて、誰かにうらまれて、死の重さを背負って。
自分で選んだ職業だから、当然のものと受け止めるしかない。
奉仕の精神という言葉の裏にあるもの
かって「労働と認められない労働」というエントリーに於いて
”同情する。が、君が改善に努力するのは別の方向だよ、きっと。”
と書いた絶望が、下にいる者の思いとしてある

猫が道路に飛び出して轢かれることはよくあることで、車を運転する人は轢いてしまった人の怖さ、苦しみは理解できるであろう。
ではそれが獣医師であれば同じように同情できるであろうか。
獣医師免許に自動車特殊免許がついているわけではない、ごく普通の自動車教習所の練習で得た免許証である。
安全運転を心がけてもなお神仏に祈る以外に避ける方法はあるまい。
新聞に救急車が交通事故を起こした記事をみる度に、記者はことの意味を、運転した消防士の一般的な安全運転が許されない責務と心情を理解して書いているかが気になる。数行の記事でも私にとってファルージャ並みに心に突き刺さる記事である。

blog上で勇ましいことを書いている人のほとんどはコロセアムの上で叫ぶひとである。
戦争反対、ファルージャでの虐殺反対をいう人に対しても、私はその同情はコロセアムの上からか下かを伺いながらみている。
横たわる市民を殺害した映像について、殺害者を批判する人がいるが、私は驚きもなく、殺害者を責める気もない。
軍服を着た正規兵ではない人間を殺すために都市戦をおこなうことが決定された時点で
被害者は殺されるしかなかったし、殺害者は人らしき動く”もの”は全て撃たなければならなかったと私は考えている。
彼らだけでなく映像にならなかった被害者がどれだけいたかについては、今後フリージャーナリストらの手で明らかにされるだろう。
殺害者が無罪だとは思わない。やったのは彼だ。
しかし映像に映った殺害者だけを責めることにはみせしめ以上の意味があるのであろうか。
軍法会議は直接殺害した者しか裁けないだろうが、被害者の死について責めるべきは
安全な壇上で勇ましいことをいったブッシュJrやラムズフェルドたちだと思っている。
左のPUBLICITYの”「国が燃える」抗議事件・改訂版”というエントリーも、
”30万人だろうと1人だろうと、一片の罪なく【殺された側にとって、「殺害」と「虐殺」と「大虐殺」とに何の違いがあるというのか】。”
という暴論をぶつあたり、下からみると善良の傲慢さがみえる。これについては別項でもう少しするつもりなので、理由はここには書かない。

このblogを見る人でこの感覚を理解できる人はいないだろうという思いが”人非人より”という言葉の裏にある。


と、ここで終われば格好いいが
私は人を殺したこともないし、殺しそうな職場(警察・自衛隊・消防署・病院など)にもいない。
この人非人シリーズはそのことが前提で一般論として成り立っている。
かって2ちゃんねる上で和歌山県立医大出身の医師が匿名の油断から殺人をほのめかしてバッシングを受けたことがあるが
職業に伴う責任として、その職務に就く人間には”云えないこと”なので、上に書いたことが本当にその心情を汲んだ言葉であるかどうかについてはわからないと言い訳しておく。
すみません。

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» 殺すってのはやなもんですぜ [隅田清次郎残日録]
standpoint1989さんの「たゆたえど沈まず」で人を殺すということについ [続きを読む]

受信: 11月 05, 2005 07:41

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