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労働と認められない労働

医学生の絶望的な嘆きに同情する。
この記事をみた一般人は何のことやらわからなかったと思う。
おそらく医師、看護士、獣医師、警察官などの24時間体制を当然とされる職業についている人間のみが、この医師に同情できる。
週5日当直とは、70床のベッドに責任を持つために、週5日は1-2時間程度の仮眠を数回して終日仕事をするということだ。49歳であれば過酷な職場環境にある程度順応しているはずだが、それでも辞職するのだから、記事には書かれていないが、ベッド数に比べて看護士数も足りないのだろう。普通の病院の当直よりひどい状況が想像できる。
夜間呼び出しは、過酷な環境の中で何とか作った生活リズムを狂わせる。呼び出しというからには、当直の残り2日の話である。多くないのは当たり前。だから、この先生は、就任以来ほとんど宿舎で寝ていなかったと理解する。
医師は診療だけすればいいというわけにはいかない。嘱託であれば勉強や看護士たちとのコミュニケーション、薬・機械のチェックなど限られるが、院長となれば更に事務・会計の雑務がのりかかる。孤立は当然、周囲と仲良くする時間がどこにあろうか。診療時間を短縮してくれというのはそういった雑務のために少ない就寝・休息時間を更に削らされるのは勘弁してくれという意味。
嘱託・非常勤はきまった時間だけだが、院長は24時間無休に近い仕事を1ケ月してきたのだろう。
と、ここまで書いても、一般人には同情してもらえないだろうと感じている。
過去の地域医療現場の医師たちの命を削っての努力に比べられて終わるだろうと。

私ら獣医師の世界でも、開業以来ウン十年休日のないものが少なくない。休んだといっても、子供が急病で生死の境だとか、新婚旅行の数日だけひとに頼んで休んだだけという話をよく聞く。
私も勤務獣医師ではあるが休みがしっかりとれず、友人たちに不義理を続けている。会合の違約は数え切れない。到着して5分たたずに帰ったこともある。祖父や伯母の葬儀・法事にもでていない。インターネットによってかろうじて他人との個人的なコミュニケーションができている状況だ。
そういう話を何度か飼主にしたこともあるが、例外なく同情してもらえなかった。休まないことに安堵されて終わる。
以前、ネット上で”24時間体制”という言葉を気軽に使う飼主に噛み付いたことがあるが、猫を好きな気持ちは一緒と、妙ななだめられかたをして終わった。
臨床の現場とは諦観と慈悲の場である。

医療も医学の進歩のいびつさと医療の現場の貧しさのバランスを個々の医師の犠牲の上にとっている。
そのことを知った医学生の前に、周囲の無理解と甘え、訴訟がみえたときに今回のような嘆きがでるのだろう。
あと何年かして、さらにその先にあるものがみえたときに彼は医師と呼ばれるだろう。

同情する。が、君が改善に努力するのは別の方向だよ、きっと。

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コメント

トラックバックありがとうございます。
さて、獣医師については、畑違いで実態が医療系の人間にもよくわからないところがあります。
・保険診療ではないから自由価格ではないのか?
 私も愛犬を動物病院で治療してもらったことがあり、診療価格の基準額が決まっているようでした。おそらく獣医師会が決めているのでしょうが、それはカルテルであって、独占禁止法違反では?
・飼い主の「サービス」要求に対しては、相応の料金を取れないのか?
 前の質問にも関係しますが、夜間や休日に往診や診察を求められた場合、それ相応の料金を請求すれば、しぜんと飼い主もコスト意識から、時間外診療をためらうのでは?また、増収となる動物病院側も、それによってオンコール勤務のための人件費を払うことができ、多くの獣医師を雇って一人当たりの負担を減らせるのではないでしょうか?

 私は以前、東京大学(理2で入学)にいて、獣医学科の進学オリエンテーションにも参加しましたが、獣医学科の卒業生で臨床獣医師になる人はほとんどないみたいでしたので、この辺の事情がよくわからないのです。
 獣医学科に進学しなかったのは、物理化学をやりたかったからです。

投稿: 井上晃宏 | 10月 06, 2004 19:18

TB及びコメントありがとうございます。
上にも書きましたが、部外者の無理解と理不尽な要求は今のところ諦観するしかない状況です。羊土社の「レジデントノート」を読んでいますが、医師も同じ様だと思いました。
1-2時間の仮眠で疲れをとる、家にいても電話が鳴ると反射的に目が覚める。何年もそういう状況にいると体質になります。何もなくとも夜間に数回目が覚めるので、こんな時間に書き込んでいます。獣医師には1に体力2に体力、常識と客あしらいの技術が続いて、頭の良さや専門知識なんて必要な時に適切な専門書をあたる為に少しあればいいだけじゃないかと思っています。
さて、お尋ねの件ですが
診療費は自由価格です。東京・京都が高く、田舎で安い傾向があります。獣医師会も幾ら以上がこの地域の常識ですよという参考価格は提示しても、決めるのは各診療所です。診療所の方針として参考価格に近い金額でするか、薄利多売でするかを決めています。獣医師の人数の極端に多いところ、幾つもの分院を持つところは安く、数人のところは標準価格に近い傾向があります。人数が多いといっても免許とりたての人間ばかりなのは医療現場に近い状況ではないでしょうか。自由価格といってもほとんど主婦相手の商売なので、極端に価格が違うと商売できません。ほとんどの先生は似た価格で商売します。三重県にも良心的な価格で評判の病院はあります。一度評判を聞かれると自由価格だと納得されると思います。
上と関連しますが、時間外診療費も極端な価格は取りづらく、その為の人数を確保することは経済的に困難です。個人若しくは獣医師会で共同の夜間診療所の開設が最近の傾向としてあります。
そういえば、そんなに多くないから夜に診てくれていいだろうという人は動物病院にも来ます。電話ならまだしも、診療所だけでなく自宅に押し掛けてくるので、家族の安全の為、診療所と自宅を分ける傾向も一昔前より増えてきました。
獣医師の就職先として主に、公務員、臨床、食品管理や研究職の3つがありますが、東京大学は公務員、特に国家公務員上級職の一般職への就職が極端に多い傾向があり、獣医師免許を持たない人も多く、付属病院も他大学卒業者が研究生・院生として入っています。わからなくて当然だと思います。

投稿: 隅田清次郎 | 10月 07, 2004 02:47

追伸
かって、”過去の地域医療現場の医師たち”でリンクした病院で、労働状況の改善を求めたストに対し、院長が解雇をおこなったことを読んだことがあります。
地域医療の難しさの例としてリンクしました。
何とか改善していかないとそのうち医療の崩壊を招きますよね。現在でもER室や小児救急の減少は起こっていますから。

投稿: 隅田清次郎 | 10月 07, 2004 03:03

 医療法の応召義務による時間外診療を拒めないために、開業医が仕事場と自宅を分けているという話はよく聞くのですが、獣医師でもあるんですか。
 獣医師に応召義務があるのかと思ってちょっと調べたら、ありました。

(診療及び診断書等の交付の義務)
第19条 診療を業務とする獣医師は,診療を求められたときは,正当な理由がなければ,これを拒んではならない。→免許取消又は業務停止
2 診療し,出産に立ち会い,又は検案をした獣医師は,診断書,出生証明書,死産証明書又は検案書の交付を求められたときは,正当な理由がなければ,これを拒んではならない。→20万円以下の罰金

 はぁ。なるほど。

 夜間や休日診療で多くの金を請求できない件は、動物医療保険が普及すれば解決されると思います。いちおう、あるんですが、入ってる人少ないですね。月額3000円程度なのに。応召義務を義務付ける以上は支払い保証が必要でしょう。
 人間の医療保険も任意加入で、治療費支払いが保証されず、かつ、応召義務も全うしろなどと言われたら、やってられません。保険が適用されない分娩はまさにその状態です。払わずに逃げられる例がよくあります。

投稿: 井上晃宏 | 10月 07, 2004 18:53

獣医師法をみていただいたのですね。ありがとうございます。
未払い問題はどこの動物診療所も抱えています。経済的に苦しいだけの人は分割払いでも払ってくれますが、検査結果が悪いとか治らないなら払わない人、払わないで転院を繰り返すことを習慣にしている人などもいます。
でもそれより困るのは、人が千円なのに、小さな動物に何万も請求するのは暴利だと新聞に投書するような人から、
MRIや放射線療法、腎移植、CRH・TRH負荷試験などの高度獣医療を求める人まで飼主の要求の幅が広すぎることに対し
獣医療業界や農水省が倫理・基準作りと、一般人への広報活動を充分行っていないことです。

保健といっても、定額見舞金から、回数限定の半額保証まで様々です。しかも時間外診療費は保証から外されていました。診療費用の保証と云うより、飼い主としての意識を高める効果に期待しています。
国保はある意味、診療に対する基準になります。医師個人として保険外診療をおこなったほうがいいと判断すれば、保健を基準としてどうするか患者に話せますが
獣医療は基準がありません。料金と効果、副作用、治癒確率などは話しても、普通はどうする、普通は幾らだが当院はとは云えません。”当院ではこの選択をする人が多い”程度が限界です。
医療法人ではなく、個人商店や有限会社、株式会社である動物病院に、求められる倫理の裏付けとなる法整備はまだ不完全です。

投稿: 隅田清次郎 | 10月 08, 2004 13:11

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